① 読了後の第一印象
読み終えた後の率直な感想は、「納得の名作だった」という一言に尽きます。
本作を手に取ったきっかけは、ミステリー好きの間でおすすめされているのをSNSでたびたび見かけていたことです。
気になって購入したものの、そこから約1年間、積読棚に眠らせてしまっていました。
なかなか読み始められなかった理由は少し特殊で、「面白いことが確定している作品」を読んでしまうのがもったいない、という妙な感覚があったためです。
「記憶を消してもう一回読みたい」という感想をよく目にしていたので、その体験を一度きりしか得られないなら、最高の状態で臨みたいという気持ちがありました。
そんな葛藤を終わらせてくれたのは、ネタバレに遭遇しそうになったという外圧でした。
それを機に読み始め、気がつけば一気に読み終えていました。
読了後は、「記憶を消してもう一回読みたい」という感想が心から理解できました。
それほどまでに、終盤の仕掛けが鮮やかでした。
積読していたことを少し後悔しつつも、読んで良かったと素直に思える一冊でした。
② ネタバレなしレビュー
物語の舞台は、本土から離れた孤島に建てられた「十角館」と呼ばれる館です。
大学のミステリ研究会のメンバー7人が合宿のためにこの島を訪れ、連続殺人に巻き込まれていく——というのが大まかな筋立てです。「孤島」「クローズドサークル」「連続殺人」と、古典的なミステリーの要素がこれでもかと詰め込まれており、ジャンルの王道を正面から描いた一作と言えます。
物語は島にいる7人の視点と、本土で動く人物の視点が交互に描かれる構成になっています。この二つの流れが並行して進むことで、テンポが生まれ、読む手が自然と止まらなくなっていきます。
島の方の続き気になる~!と本土の方の続き気になる~!の繰り返しでした。
登場人物たちはアガサ・クリスティやエラリー・クイーンなど、実在する有名な推理作家にちなんだあだ名で呼ばれています。
これはミステリー読みへのサービス精神のように感じられる一方で、序盤は名前が覚えにくく、誰が誰なのかやや混乱しやすいという側面もあります。正直なところ、後半になっても「これ誰だっけ?」となることが何度かありました。ただ、それで物語の理解が妨げられるほどではないので、あまり気にせず読み進めて問題ないと思います。
本作は「館シリーズ」の第1作にあたります。
本作単体として完結した読み味になっているので、シリーズを知らない方でも入りやすい構成です。一方で、世界観の設定については丁寧に説明されているため、ミステリー初心者でも戸惑いにくいと感じました。
ミステリーとしての仕掛けについては詳しく触れませんが、クローズドサークルものが好きな方や、「騙される快感」を求めている方にはストレートにおすすめできます。
読後に「そういうことだったのか」と線がつながる感覚は、ミステリーならではの醍醐味で、本作はその体験を正面から提供してくれる一冊です。
ひとつアドバイスするとすれば、できる限り事前情報を入れずに読み始めることです。
どんな種類の仕掛けがあるかを知っているだけで、読み方が変わってしまいます。
私は幸いなことにほとんど前情報を持たずに読めたため、終盤の体験をしっかり受け取ることができました。
③ 作品情報・おすすめポイント
作品タイトル:十角館の殺人
著者:綾辻行人
シリーズ:館シリーズ 第1作
本作は1987年に刊行され、日本のミステリー界において「新本格」と呼ばれるムーブメントの先駆けとなった作品です。
今回読んだのは新装改訂版の第109刷発行のもので、その数字に思わず目を見張りました。これだけ長期にわたって読み継がれてきたという事実が、作品の力を何よりも雄弁に語っていると思います。
孤島の洋館という舞台設定と、古典ミステリーへのリスペクトを感じさせる構造。
そして、読者の予測を鮮やかに裏切るトリック。これらが高い水準でまとまっており、「日本のミステリー史に残る一冊」という評価に異論はありません。
また、本作には実写映像化やコミック化も存在するそうです。
内容の性質上「どうやって映像にするんだろう?」と興味が湧きましたので、機会があれば確認してみたいと思っています。
こんな人におすすめです
- クローズドサークルものや孤島ミステリーが好きな方
- 「騙された」という読後感を求めている方
- 日本ミステリーの名作を読んでおきたい方
- 読後に伏線を拾い直す再読の楽しみも味わいたい方
前情報はできるだけ少なく、まっさらな状態でページを開くことを強くおすすめします。
④ ネタバレあり感想(※注意)
※ここからはネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
正直に言うと、読んでいる途中から守須が怪しいとは感じていました。「絵を描いている」という行動を表向きにしながら、実は島へ渡って犯行を繰り返しているのではないか、という推理は自分なりに立てていたのです。
ところが、「ヴァン=守須」という核心には、まったく気がつきませんでした。
これが本当に「やられた」という感覚でした。7人のあだ名が覚えにくいと感じながら読んでいた自分に対して、「それ自体が仕掛けの一部だった」と気づいたときの驚きは相当なものでした。
外国の作家由来のあだ名には意味があって、その名前と本土の登場人物が重なる瞬間——「衝撃の一行」と呼ばれるその場面で、島と本土の物語がひとつに合わさるのは、まさに圧巻という言葉がふさわしい体験でした。
こういう「やられた」を味わいたくてミステリーを読んでいるので、この体験ができただけで本作を読んで良かったと感じました。
また、物語の最後が犯人視点で語られ、これまでの犯行の全貌が明かされる構成も印象的でした。三人称で淡々と進んできた物語が、終盤でぐっと内側に踏み込んでくる感覚があり、自然と引き込まれました。
興味深かったのはエラリイとカーの対比です。
真相がわかるまでは、エラリイが切れ者で魅力的な人物に映っていました。ところが犯人視点に切り替わると、エラリイは致命的な行動をとっていて、むしろ滑稽にすら見えてしまう。一方で、噛ませ犬的な存在に感じていたカーが、結果として正解だったというのは、なんとも皮肉が利いていておもしろかったです。
物語の終わりは、犯人のその後を読者の想像に委ねる形でした。
読み終えた直後は「ここで終わり?」とやや拍子抜けしたのですが、少し時間をおくと、その余白が逆にじわじわと効いてきました。余韻の残し方として、今はこの終わり方が好きだと思っています。
また読了後に知ったのですが、「館シリーズ」は思いのほかシリーズ数が多いのですね。
次は『水車館の殺人』を読もうと思っています。綾辻行人先生の他の作品も気になってきました。
それから、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を読むと本作がより深く楽しめるという話も耳にしました。こちらもぜひ読んでみたいと思っています。
⑤ まとめ:ミステリーとしての感想
一言で表すなら、「クローズドサークルミステリーの醍醐味を正面からぶつけてくる、端正な傑作」です。
孤島・連続殺人・二重の物語構造というオーソドックスな設定を用いながら、それを高い完成度でまとめあげていること。
そして、仕掛けが鮮やかに「機能する」作りになっていること。
この二点が本作の大きな強みだと思います。
「記憶を消してもう一回読みたい」という感想の意味を、読んでようやく理解できました。初読の体験は一度しか得られないからこそ、前情報をなるべく持たずに読むことをおすすめしたい。
一方で、真相を知った上での再読では、伏線の巧みさを拾い直すという別の楽しみ方もできます。
積読していた約1年を経てようやく読みましたが、もっと早く読めばよかったとも、このタイミングで読めて良かったとも思っています。
ミステリーを読み慣れた方にも、これから読み始める方にも、自信をもっておすすめできる一冊です。



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