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『どうせそろそろ死ぬんだし』ネタバレなしレビューネタバレあり感想

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①読了後の第一印象

香坂鮪さんの作品『どうせそろそろ死ぬんだし』を読了してまず感じたのは、
「粗さを含めて強く印象に残る作品だった」という点です。
正直なところ、読みにくさや納得しきれない部分はいくつかあり、手放しで完成度が高いとは言いにくい印象もありました。
しかし、それにもかかわらず「もう一度読み返したい」と思わせる魅力が確かにあります。

本作を手に取ったきっかけは、『このミステリーがすごい!』受賞作品であるのと、なによりタイトルのインパクトでした。「どうせそろそろ死ぬのに、なぜ殺すのか」という問いはミステリーとして非常に興味を引かれるものです。
また、SNSなどで話題になっていたこともあり、その仕掛けや構成に期待して読み始めました。

実際に読んでみると、序盤と終盤で印象が大きく変わる作品でした。
前半は比較的ゆったりと進みますが、後半に入ってからは驚きの連続で、一気に読み切ってしまう展開でした。全体として、読み終えたあとにもう一度最初から確認したくなるタイプのミステリーだと感じました。

②ネタバレなしレビュー

本作の簡単なあらすじは、余命宣告を受けた人たちだけが集まる山奥の別荘に、探偵とその助手がゲストとして招かれます。しかし、参加者のひとりが遺体で発見されます。いつ亡くなってもおかしくない状況のなか、「これは持病による自然死か、それとも殺人か?」「もし殺人なら、なぜ余命わずかな人間をわざわざ殺す必要があるのか?」という、予測不能な謎に挑む異色の館ミステリーで、いわゆる王道の館ミステリーとは少し異なる性質の作品です。
閉鎖的な空間や論理的なトリックを前面に押し出すというよりも、「余命宣告を受けた人々が集まる」という設定を軸に、死因や動機の可能性を模索しながら物語が展開していきます。

序盤はやや静かな進行で、正直に言えば少し退屈に感じる部分もありました。
しかし、この前半の積み重ねが後半の展開にしっかりとつながっており、読み進めるうちに「あの場面、実はそうだったのか」と気づかされる構成になっています。
いわゆる“後から効いてくる伏線”が多く、再読によって印象が大きく変わるタイプの作品だと思います。

語り手である七隈のキャラクターも印象的です。
独特のユーモアと軽妙な語り口が特徴で、会話のテンポも良く、重くなりがちな設定でありながら全体の雰囲気はどこか明るさを感じさせます。登場人物の多くが余命を宣告されているにもかかわらず、過度に暗くならないどころか気楽に感じました。

一方で、気になる点もいくつかあります。まず、会話の中で誰が話しているのか分かりにくい箇所があり、読解に少し負担を感じる場面がありました。また、医療に関する用語や説明がやや難しく、理解が追いつきにくいと感じる読者もいるかもしれません。

ミステリーとしてのトリックに関しては、緻密なロジックで納得させるというよりも、大胆な構成や意外性で読者を驚かせるタイプです。そのため、本格ミステリーのような厳密さを求める方には好みが分かれる可能性があります。

③作品情報・おすすめポイント

作品名: どうせそろそろ死ぬんだし
著者: 香坂鮪

本作の大きな魅力は、「死が近い状況で起こる殺人」というテーマと、それを軸にした大胆な構成にあります。物語は一見すると穏やかに進行していきますが、後半にかけて前提そのものが次々と覆されていき、読者の認識を大きく揺さぶってきます。

また、語りの軽やかさも特徴的です。重いテーマを扱いながらも、七隈の視点によってどこかユーモラスで読みやすい雰囲気が保たれており、読書体験としてのバランスが取れています。

こんな人におすすめです
・連続するどんでん返しを楽しみたい方
・一度読んだ後に再読して理解を深めたい方
・キャラクターの掛け合いや会話劇が好きな方
・少し変わった設定のミステリーに興味がある方

④ネタバレあり感想(※注意)

※ここからはネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

本作で最も印象に残ったのは、やはり展開の反転の多さです。
特に、主人公だと思っていた七隈が物語の途中で死亡し、その正体が車いすのおばあちゃんで助手の律がその孫だったと明かされる場面には大きな驚きがありました。
外見や性別に関する情報が明示されていなかったためなんとなく小柄な中年女性を想像していました。こういう読者が自然と抱くイメージを逆手に取った仕掛けは、小説ならではの体験だと感じました。好きです。

さらに衝撃的だったのは、「2つの殺人」が実は成立していなかったという点です。
誰も死んでいなかったという事実、そして真犯人が薬院律でありながら、犯人以外の登場人物が全員真相を知っていたという構図は、従来のミステリーの前提を大きく揺るがすものでした。
読み進めるたびに状況が更新され、常に認識を修正し続ける必要があり、その点で非常に刺激的な読書体験でした。

↓こんな感じでした。
七隈が死んだ!?
七隈がおばあちゃん!?律が孫!?
おばあちゃんが殺人の犯人!?
実は誰も死んでない!?
真犯人は孫!?
そもそも犯人以外みんな知ってた!?
説明して!?!?!?!?

ただし、トリックについては気になる点もありました。
運に左右される要素が強いように感じられたことや、被害者があえて「殺されたふり」をするという行動のリスクの高さには、やや疑問が残りました。
物語としての面白さは十分にあるものの、論理的な整合性を重視する読者にとっては引っかかる可能性があります。

また、タイトルにもなっている「どうせそろそろ死ぬのになぜ殺したのか」という問いについては、提示された答えに一定の納得はできましたが、期待していたほどの強い説得力は感じられず、やや肩透かしの印象も受けました。

終盤の展開についても評価が分かれそうです。タイトル回収とともに新たな事件を匂わせるラストは、不穏さや余韻を残すという意味では魅力的ですが、個人的には少し蛇足に感じました。さまざまな真相を受け止めきる前にさらに新しい要素が提示されるため、読後の印象がややごちゃっとなってしまったように思います。

南春奈の最後の行動については明確な答えが示されておらず、読者に解釈が委ねられています。
私としては、絵を破壊されたことへの復讐が最も分かりやすい動機だと感じましたが、それだけではやや弱くも感じました。
一方で、表紙イラストの構図を踏まえると、薬院律に対して以前から何らかの感情を抱いていた可能性も考えられ、複数の解釈が成立する点は興味深い部分です。

⑤まとめ:ミステリーとしての感想

全体として、本作は細部の粗さや賛否が分かれそうな要素を抱えながらも、
それを上回る“体験としての強さ”を持ったミステリーだと感じました。
前半の静かな積み重ねと後半の怒涛の展開、その落差も含めて印象に残りやすい構成になっています。

ミステリーとして一言で表すなら、「完成度の高さよりも、読者に与える驚きと再読性に重きを置いた作品」です。
一度読んで終わりではなく、読み返すことで新たな発見がある点に価値があり、その意味で長く楽しめる一冊だと思います。

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