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『イニシエーション・ラブ』ネタバレなしレビューネタバレあり感想

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※この作品を読むことをすでに決めている人は、
なんの情報もなく読んだほうが楽しめると思います。
なので、この記事も読まない方がいいです。
個人的には背表紙のあらすじすら読まない方がいいと思っています。

① 読了後の第一印象

読了後の率直な印象としては、「私にはあまり刺さらなかった」というのが正直なところです。
ただしそれは作品の出来が悪いという意味ではなく、むしろ“期待値とのズレ”が大きかったのだと思います。

本作を手に取ったきっかけは、「有名な叙述トリック作品である」という前情報と、背表紙にある「最後から二行目で物語が変貌する」という強い煽り文句でした。さらにSNSでもおすすめしている人を何人か見かけ、自然と期待値はかなり高くなっていました。

そのため、読む前からある程度“仕掛けがある作品”として身構えてしまい、注意深く読み進めることになりました。結果として、途中で違和感に気づいてしまい、ラストのインパクトを十分に味わえなかったのは少し惜しかったと感じています。

とはいえ、作品としての構成や演出には見るべき点も多く、単なる「合わなかった作品」で片付けるにはもったいない一冊でもありました。

② ネタバレなしレビュー

物語の舞台は1980年代。内気な青年・たっくんと、魅力的な女性マユとの恋愛が、一人称視点でじっくりと描かれていきます。ジャンルとしては叙述トリックを用いたミステリーに分類されますが、読んでいる時間の大半はほぼ純粋な恋愛小説です。全体の99%が恋愛描写で占められているといっても過言ではありません。

ミステリーを期待して読むと、序盤から中盤にかけてはやや肩透かしに感じるかもしれません。

ただし、その心理描写は非常に細かく、主人公の感情の揺れや葛藤が丁寧に描かれている点は印象的でした。恋愛の微妙な距離感や、関係の変化に伴う違和感などが、静かに積み重なっていきます。

また、1980年代という時代設定が丁寧に作り込まれており、当時の空気感——ファッション、音楽、恋愛の作法のようなもの——が自然と伝わってきます。その時代を知らない読者にとっても、読み物として興味深い部分が多いと思います。

ひとつ注意しておきたいのは、性描写が作中にちょくちょく登場する点です。恋愛描写の一部として組み込まれているため唐突な印象はありませんが、苦手な方は念頭に置いておくといいかもしれません。

ひとつ強くおすすめしたいのは、ミステリーであることをいったん忘れて読み始めることです。「騙される」ことを意識しすぎると、せっかくのトリックが機能しにくくなります。恋愛小説として素直に物語に入り込んだほうが、終盤の仕掛けが生きてくるはずです。

序盤から強い謎解き要素を求める人には、ややテンポが合わない可能性もあります。

③ 作品情報・おすすめポイント

作品名:イニシエーション・ラブ
著者:乾くるみ

本作は、日本の叙述トリック作品の中でも特に知名度の高い一冊であり、「最後の数行で物語の見え方が変わる」構成が大きな特徴です。

物語は恋愛小説として自然に進行しながらも、全体を通して細かな違和感が散りばめられており、読者に無意識の引っかかりを残します。
その違和感がどのように収束するのか――という点が、本作の大きな魅力です。

また、目次がカセットテープの形式になっているなど、作品全体のデザインにも遊び心があり、こうした細部が“仕掛け”の一部として機能している点も見逃せません。

こんな人におすすめです。

・有名な叙述トリック作品を一度は読んでみたい人
・恋愛小説としての心理描写を楽しみたい人
・読後に「もう一度読み返したくなる作品」を探している人

先入観をできるだけ持たずに読むことで、本作の魅力はより強く感じられるはずです。

④ ネタバレあり感想(※注意)

※ここからはネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。

真相はこうです。
「side-A」と「side-B」で登場するたっくんは別人であり、二つの物語は同じ時間軸で並行して進んでいました。
マユは二人の男性と同時に交際しており、読者は最後の二行目に至るまでそのことを知らないまま読み進める——というのがこの作品の仕掛けです。

改めて振り返ると、この仕掛けを機能させるための伏線が実に丁寧に埋め込まれています。
たっくん視点のみで語られ続け、マユの内面や行動の裏側には一切踏み込まない語り口は、ミステリーとしての仕掛けであると同時に、人物造形としても興味深いです。
マユがどんな気持ちでいたのか、なぜそういう行動をとったのかは最後まで明かされません。読者にゆだねられたままになります。
その余白は、好みによって評価が大きく分かれる部分だと思います。
個人的に、マユは、彼氏と遠距離恋愛になったしせっかくだから浮気したらそっちの方が楽しくなったんじゃないかなと思います。
二人のたっくんは一生マユが浮気していたことには気が付かなそうですね。

また、目次のカセットテープデザインは単なる時代的演出ではなく、side-AとBが「同じテープの表と裏」であることを示しているわけで、最初から答えは目次に書いてあったとも言えます。
これは読後に気づくと「やられた」と感じる仕掛けで、私はこの部分が一番好きでした。

一方、私個人としては、背表紙の「最後から二行目で変貌する」という文言があらかじめ目に入っていたことで、注意深く読みすぎてしまいました。
序盤の違和感、side-Bというタイトル、二人のたっくんの微妙な属性の差……これらが重なって、終盤を迎える前にほぼ答えが見えてしまいました。

これは作品の欠点というより、私の読み方の問題だと思っています。
事前情報ゼロ、ミステリーだと意識せず恋愛小説として読んでいたなら、最後の二行目は確実に効いたはずです。再読するとしたら、そのときは「知った上で読む」楽しみ——伏線を拾い直す読み方ができると思います。
その意味では再読の価値は十分にあります。

叙述トリックって名作でも映像化できないのが惜しいよなと思っていたらなんと実写版があるみたいですね。どうやって?見れたら見ます。

⑤ まとめ:ミステリーとしての感想

一言で言えば、「条件が揃えば傑作になりうる、繊細な読み方を要求する作品」だと思います。

叙述トリックの仕掛けとしての完成度は高いです。恋愛描写の厚みがミステリーの偽装として機能していて、構造はよく考えられています。
ただ、この作品はトリックが「効くかどうか」が読後感のほぼすべてを決定してしまうため、効かなかった場合の受け皿が少ないです。
そこが人によって評価が極端に分かれる理由でもあるでしょう。

私は今回、ミステリーとしての驚きをうまく受け取ることができませんでしたが、視点主の心理描写の丁寧さや1980年代の時代描写、そしてカセットテープの目次に込められたセンスは素直に好きでした。

もし手に取る機会があるなら、前情報は最小限に
できれば背表紙のあらすじも読まずにページを開くことをおすすめします。

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